【合格講座3回目】世界遺産の基礎知識(後編)

合格講座

前回の講義では、「世界遺産の基礎知識の前編」ということで、世界遺産の定義や世界遺産条約の成立の過程、そして世界遺産に申請する際の条件や登録までの過程について学習しました。

 

 

今回は「世界遺産の基礎知識」の分野から、世界遺産に関する概念的な理解、観光とのかかわり、登録基準などについて解説していきます。

この講座を確認することで、次のことが達成できます。

 

・世界遺産に関する概念(真正性・完全性・文化的景観・その他)について理解できる
・世界遺産と観光のかかわりについて理解できる
・「無形文化遺産」や「世界の記憶」について理解できる

 

 

それではさっそく解説していきます。前回の講義とあわせて得点源になる分野なので、がんばりましょう。

 

【合格講座3回目】世界遺産の基礎知識(後編)

世界遺産における概念

世界遺産にはそれを理解する上で重要な、いくつかの概念が存在します。前回の講座でもちょこっと解説しましたが、あくまで概念的なものであって分類ではありません。

順に解説していきます。

 

真正性

一言でいうと、「その世界遺産はきちんと価値を継承できているか」ということです。

世界遺産を構成する建造物、景観などがその文化がもつ独自性、伝統、技術などをしっかりと継承していることが求められます。

注意すべきは修復工事。建築当初の技法、製法、材料を無視した状態で復元・修繕したものは継続性が証明できない(価値が失われている)ので、アウトです。

国や環境によって修繕の方法は異なりますので完全な真正性を求めらることはありませんが、事情があるのであれば、それを納得させるだけの根拠や説明が必要です。

 

真正性に厳密になりすぎると、木の文化(アジア)や土の文化(アフリカ)は石の文化(ヨーロッパ)と比較して不利であることが問題視されています

 

完全性

その遺跡を保護・保全するための法律、予算、計画などがすべてそろっている状態のことを指します。それらが揃っていないと、遺産を保護・保全するための必要条件が整っているとは言えませんので、各国政府は条件を満たし続けるように努力しなければなりません。

 

世界遺産に登録されると勝手な開発は制限されるなど、いろいろな制約が発生します

 

 

危機遺産

上記、真正性や完全性が担保されていないと判断されると、世界遺産委員会により危機遺産リストに登録されてしまいます。

危機遺産に登録されると、その国の政府には抜本的な保全計画の見直しと改善の報告が求められ、それでも是正できない場合は、世界遺産基金の活用や世界遺産センターの助力によって、金銭的、技術的支援を受けることとなります。

上記対策をしてもなお保全・保護できないと判断されれば、最悪の場合、登録抹消となります。反対に適切に改善していると判断されれば、危機遺産リストからは除外されます。

 

負の遺産

人種差別、戦争、拷問、奴隷など、歴史的価値のある遺跡ではあるものの、その根源が人類が犯した過ちであり、その教訓を学ぶためのものである場合、それらの遺跡を負の遺産といいます。

3級の範囲では、以下の4つの世界遺産が該当しています。

原爆ドーム 日本(広島) 原子爆弾の投下
アウシュビッツ ポーランド ナチスによるユダヤ人強制収容所
ゴレ島 セネガル 奴隷貿易(三角貿易)における最大の活動拠点
ロベン島 南アフリカ アパルトヘイト(人種差別政策)における強制収容所

 

正式な分類ではないので、「どの遺産が負の遺産に該当するのか」という議論があります。

 

文化的景観

文化的景観とは文化遺産として登録されてはいるものの、自然とともに作り上げた景観であったり、自然の要素が文化と強く結びついている景観を指します。

 

やや抽象的な概念ですが、

複合遺産(文化+自然) > 文化的景観(文化+自然要素あり) > 文化遺産

という感じで、覚えておけば問題ありません。

 

自然遺産かつ文化遺産 の場合は 複合遺産
自然遺産の性格がある文化遺産 の場合は 文化的景観の価値が認められる文化遺産

自然遺産における「文化的景観」はない点に注意。あくまで文化遺産の中での分類です。

 

シリアルノミネーションサイト

文化、歴史、自然環境などが共通する複数の遺産を、まとめて一つの遺産として登録するもの。

例えば京都の場合、清水寺も金閣寺も平等院も、古都京都の文化財という登録名でまとめて1つの世界遺産として登録されています。

単発で登録、申請を行っていては、申請も手間ですし調査にも時間がかかります。

一方で、姫路城タージマハルのように、その建造物単発で登録されている事例も多くあります。

実際には登録をする各国の事情、地域性の考慮などいろいろありますが、そこにそれしかない場合は単発申請、周辺にもいろいろある場合は一括申請(シリアルノミネーション)と理解しましょう。

 

トランスバウンダリーサイト

シリアルノミネーションサイトの国際版です。国境をまたいで、1つの世界遺産として登録されている場合の概念です。

シリアルは国内、トランスは国外と覚えておけば問題ありません。

 

ちなみに国境をまたぐ遺跡であっても、それぞれの国が別の遺産名で登録している場合は、トランスバウンダリーサイトとはみなされません。

 

日本における世界遺産の基礎知識

日本が世界遺産条約を締結したのは1992年であり、世界の中では125番目でした。登録については翌年の1993年から始まり、最初に以下の4か所が登録されています。

 

・法隆寺地域の仏教建造物群
・姫路城
・屋久島
・白神山地

なお、2020年現在では23件が世界遺産として登録されています。

 

この辺は何度か解説しているので、さらっと流してOKです。

 

世界遺産と観光のかかわり

世界遺産に登録されると多くの人から注目され、とくに登録されたばかりのころはメディアや観光客が殺到することになります。

人が集まることにより、遺産の魅力が再発見され異文化への理解が深まるほか、観光収入の増加など経済的な恩恵も期待できます。

その反面で排気ガスによる大気汚染やごみの問題など、観光客の増加が原因で危機遺産リストへ登録されてしまうような事態も起きています。

 

自然環境に配慮しながら、マナーを守って観光することが大切ですね

 

無形文化遺産と世界の記憶

世界遺産としては分類されていないものの、それと同じような「価値」が認められているものに、無形文化遺産世界の記憶があります。

どちらも、世界遺産と同じくユネスコが管理しています。

無形文化遺産は、伝統的儀礼、風俗、音楽、舞踊などの文化全般を指し、無形文化遺産保護条約のもとで保護されています。世界全体で429件が登録されており、日本からは「能楽」「歌舞伎」「和食」などが登録されています。

 

 

世界の記憶は、おもに書物・文書・絵画などの創作物を保護するプログラムです。伊達政宗による慶長遣欧使節団の関連資料などが登録されています。

 

 

 

世界遺産は不動産しか登録されないので、無形の文化遺産については別の形で保護されていると理解しましょう

 

 

 

世界遺産の件数

世界遺産条約の締結国は現在、193か国になっています。はじめに締結したのはアメリカ(1973年)で、日本はそれから遅れること20年後の1992年でした。

全体の登録数は1121件ですが、そのうち文化遺産が8割弱で最も多く、自然遺産は2割程度、複合遺産は39件となっています。

また締結国のうち1割強の国には、登録されている世界遺産がありません。

 

面積が極端に小さい都市国家や、申請までの体制が整わない政情不安の国などです。

 

地域的に見ると、登録されている遺産の4割はヨーロッパに集中しており、アフリカなどはまだまだ登録数の割合が少ない状況です。

国別でみると、イタリア、中国、スぺイン、フランス、ドイツの順で、日本は全体の12位(アジアで二番目)となっています。

 

最初の講義(オリエンテーション)で触れた部分です。再度、確認しましょう。

 

最近は年間で20件程度の遺産が新規で登録されています。一方で、世界遺産リストから抹消された例が過去に2例だけあるので、確認しておきましょう。いずれも経済活動を優先させ、本来の普遍的価値を失わせたことが理由とされています。

 

アラビアオリックスの保護地区(オマーン)

経済開発を優先し保護地区の90%を削減する方策を取ったため、価値が損なわれたと判断された

ドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ)

エルベ川に景観を損なわせる橋を架けることが住民投票で決定したため、景観破壊とみなされた

 

10種類の登録基準

それぞれの世界遺産には、その遺産がなぜ登録されたのかという基準が存在します。登録基準は全部で10種類あり、そのどれかにかならず当てはまるとされています。

 

世界遺産の持つ「顕著な普遍的価値」をより具体的に示したものです。文化遺産であれば基本的に2つ以上に当てはまるとされています。

 

(i)人間の創造的才能を表す傑作である。
(ii)建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値観の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
(iii)現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
(iv)歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。
(v)あるひとつの文化(または複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)
(vi)顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
(vii)最上級の自然現象、又は、類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
(viii)生命進化の記録や、地形形成における重要な進行中の地質学的過程、あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
(ix)陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群集の進化、発展において、重要な進行中の生態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。
(x)学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など、生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。

引用:公益社団法人・日本ユネスコ協会連盟

 

 

登録基準1から6までが文化遺産、7から10までが自然遺産に相当します。そして複合遺産は、それぞれどちらの基準も1つずつ以上満たしている遺産ということになります。

ここで確認しておくべきことは、以下の2つです

 

・日本の自然遺産は、すべて登録基準9が認められている
・負の遺産については、登録基準6のみでの登録が認められていること

 

3級試験では、登録基準の内容まで細かく覚える必要はありません。上記のポイントだけ抑えておけば、OKです。

 

まとめ

今回は前回に引きつづき世界遺産に関する基礎知識として、世界遺産に関する概念を中心に、観光とのかかわり、登録数、登録基準などについて学習しました。

覚えるべきことは多いものの、1つずつ確実に理解していきましょう。無理におぼえようとせず、何度も繰り返し読み込むことが大切です

 

それでは今回のまとめです。しっかり確認しましょう

 

・世界遺産にはさまざまな分類の概念がある
真正性・・・・遺産価値の継承性
完全性・・・・遺産保護の完全性
危機遺産・・・真正性と完全性が欠如した危機的な遺産
負の遺産・・・人類の過ちの教訓をまなぶための遺産
文化的景観・・自然的な要素が認められている文化遺産
シリアルノミネーションサイト・・・複数の遺産をまとめて登録(国内のみ)
トランスバウンダリーサイト・・・・複数の遺産をまとめて登録(海外含む)
・日本の世界遺産条約締結は1992年、登録は翌年から(最初は4件)
・観光客の増加による影響(文化理解の促進・経済的恩恵・環境破壊)
・世界遺産として分類されない概念に、無形文化遺産世界の記憶がある
・世界遺産登録件数は1121件で登録地域には偏在がみられる
・世界遺産には10種類の登録基準がある

 

 

次回からはいよいよ個別の世界遺産について確認していきます。まずは得点源になる国内の遺産から学習していきましょう。

 

 

 

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