【世界遺産検定3級講座】地域ごとの登録傾向|ヨーロッパに多い理由とは

博士、世界遺産ってヨーロッパの遺産が多い気がするんだ。どうしてなの?

とても良いところに気づいたね。実は世界遺産には地域的な偏りがあるんだ。特にヨーロッパは文化遺産が多く、これは歴史的・制度的な背景によるものなんだよ。
1. 地域ごとの登録件数の概要
ユネスコの統計によると、2025年時点での世界遺産登録件数は1248件に達しています。そのうち、ヨーロッパと北アメリカ地域だけで全体の約半数を占めています。以下は大まかな地域別の割合です。
地域別の世界遺産登録割合(概数)
- ヨーロッパ・北アメリカ地域:約50%
- アジア・太平洋地域:約25%
- ラテンアメリカ・カリブ海地域:約15%
- アフリカ地域:約9%
- アラブ諸国地域:約5%
このように、ヨーロッパ諸国が突出して多いことがわかります。とりわけイタリア・フランス・ドイツ・スペイン・英国が上位に位置しており、登録数の面で群を抜いています。
2. ヨーロッパに世界遺産が多い理由
ヨーロッパに登録が集中するのは偶然ではなく、以下の3つの要因が重なっているためです。
ヨーロッパに多い主な理由
- 文化遺産の密集:古代ローマ、ルネサンス、宗教建築など長い歴史の中で形成された遺産が多い。また石造りのものが多く、劣化や腐食に強いのも土や木の文化と比較して有利に働いている。
- 条約発足時の主導:1972年の世界遺産条約の起草・運用を主導したのがヨーロッパ諸国であった。
- 資金・専門機関の充実:調査・申請・保全に必要な研究機関や予算が整備されている。
これにより、制度が始まった当初から欧州中心の登録構造が生まれました。その結果、発展途上国では候補地があっても資金や専門家の不足により登録に至らないケースもあります。

つまり、登録が多いのは“価値が高いから”というより、“体制が整ってる国が多いから”ってこと?

そうだね。価値の高さだけではなく、推薦書作成や保全制度を整える“国の力”も大きく関係しているんだ。
3. アジア・アフリカ地域との比較
アジア地域も登録数を増やしていますが、その多くは文化遺産+自然遺産の複合遺産です。これは、自然と文化が一体となった信仰や景観を重視する文化的背景によるものです。たとえば「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」や「カトマンズ盆地」などがその典型例です。
一方、アフリカ地域では、保全資金や専門家不足により、推薦が難航することが多くあります。多くの遺産が危機遺産リストにも登録されています。ユネスコはこうした不均衡を是正するため、技術支援や研修を行い、地域バランスの改善を図っています。
4. 世界遺産条約がめざす「地域的均衡」
ユネスコは、世界遺産条約の精神に基づき、特定地域への偏りを是正することを重要課題としています。
その方針のひとつが「グローバル・ストラテジー(Global Strategy)」です。
1994年に採択されたこの戦略は、従来の「ヨーロッパ中心の文化遺産偏重」から脱し、多様な地域・文化・自然を公平に代表させることを目的としています。
グローバル・ストラテジーの主な目的
- 登録件数の地域的バランスを取る。
- 自然遺産・文化遺産・複合遺産の割合を調整する。
- 代表性の低い文化・文明・生態系を掘り起こす。
この政策により、アジアやアフリカ、中南米でも新たな登録が増加しましたが、依然としてヨーロッパの割合は高い水準にあります。
5. 登録傾向の変化
近年では、単独の建造物や都市よりも、複数の国や地域にまたがるシリアル・ノミネーション(連続遺産)や、文化と自然を包括する文化的景観の登録が増えています。
これにより、文化の多様性と自然環境の関連性を重視する方向へと移行しています。世界遺産の概念が広がりつつある現在、地域差を補う新しい形が模索されているのです。
6. 日本の位置づけ
日本はアジア地域の中でも比較的多くの登録件数を持ちます。文化庁・環境省が計画的に推薦を進めており、文化遺産と自然遺産の双方をバランス良く登録してきました。
特に「文化的景観」や「産業遺産」など、ヨーロッパのモデルを取り入れながら独自の展開を見せています。
ただし、国内でも地方間でのバランスが課題となっており、地域の協働による推薦体制の整備が今後の鍵となります。
7. 試験でのポイント
世界遺産検定3級では、地域別の登録傾向とその背景が出題されることがあります。まず、ヨーロッパ・北アメリカ地域に登録が集中しているという全体構造を理解しておきましょう。特に、ヨーロッパに多い理由として「文化遺産の集中」「制度の整備」「条約発足時の主導」という3点を明確に説明できるようにしてください。
また、1994年に導入された「グローバル・ストラテジー」が地域的均衡をめざす政策であることも重要です。さらに、アジアやアフリカ地域では資金・人材の不足により推薦が難しいこと、日本がバランス型の登録国であることを押さえておくと、関連問題にも対応できます。
8. まとめ
- 世界遺産はヨーロッパに偏在している。
- 原因は文化遺産の多さ・体制の充実・歴史的主導。
- アジア・アフリカ地域では資金と専門家不足が課題。
- グローバル・ストラテジー(1994)が地域的均衡を目的とする。
- 日本はアジア地域の中で登録数が多く、バランス型の国である。

世界遺産って“数の多さ”だけじゃなくて、“どうバランスを取るか”も大事なんだね!

そのとおり。世界遺産は“人類全体の記録”だから、どの地域の文化も平等に残していくことが大切なんだ。
コメント